10回目のキスの仕方
「俺は会ったことがないし、だからイメージもできていないと思うけど、でも…愛されてないって決めつけるには早すぎる気がしてる。」
「…どういう、ことですか?」

 彼女が胸の中でゆっくりと顔を上げた。その頭を撫でながら、言葉を続ける。

「ただ、すれ違ってるだけなんじゃないかって、ちょっとだけ思う。」
「すれ違っては…いるんだと思います。」
「うん。だから、最初は小さなすれ違いだったけど、そのずれが…大きくなったんじゃないかって。まぁ、あくまで話を聞いててそう思ったってだけなんだけど。」

 泣き顔も笑顔も、悲しい告白も、抱きしめてほしいとねだる声も全てが愛おしい。そんな風に思える人に、辛い思いを抱えたままでいてほしくないと思うのは、もしかするとお節介なのかもしれない。だとしても、あんな風に泣く彼女をどうにかしたい。

「…ってごめん。混乱させる気はないし、あくまで思ったってだけのことなんだけど。」
「…いいえ。もしかしたらそうなのかもしれません。私が…怖がっていたのかもしれません。」
「怖い?」

 彼女は俯いたまま、静かに頷いた。

「父の口から本当にいらないって言われたら…どうしたらいいのかわからない…って思う気持ちも…ある、から…。」
「…そ、っか…。」

 彼女が怖がるように、家族を恐れたことなど今までにないから、同じように思うことには無理がある。だから、理解するというよりは、近付くことができるようにしたい。

「美海。」
「…はい。」
「美海にとっては辛いことを、…ちゃんと話してくれてありがとう。今日を一緒に過ごす相手に俺を選んでくれたことも、嬉しい。」
「…そんな、…私…私の方こそ…こんな重い話を…ちゃんと聞いてくれて…ありがとうございます。それに誕生日まで祝っていただいて…。」
「好きでやってることだから。」

 そっと彼女の肩に手を伸ばした。
 どんな姿も愛おしい彼女を壊さないように抱きしめる。

「圭介くん?」
「…大切だから。」
「え?」
「だから、頑張る。俺も、美海も。」

 彼女のためではなく、あくまで自分のために。一つ、動く決意をした。
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