10回目のキスの仕方

それすらも愛おしくて

 涙に触れて初めて、彼女がずっと抱えていた寂しさや悲しみに触れることができたような気がした。もう一度頬に流れる涙を唇で掬うと、彼女はもう一度静かに瞬きをして涙を落とした。

「涙が…止まりません…。」
「いいよ。気の済むまで泣けばいい。」
「う~…そうやって圭介くんはすぐ私を甘やかす…。」
「そういう体質だと思って。」

 少し納得のいかない顔をしながらも、素直にトンと自分の胸に顔を埋める彼女に、精神的な意味で近付くことができたのだとわかる。そんな彼女の背中に腕を回せば、より素直に身体を預けてきた。

「…素直。」
「…我儘言ってって…圭介くん、言ったから。」
「まぁこんなの、我儘って言わないけど。」

 むしろ、この程度ならばいつでもねだってほしいくらいだ。自分からはなかなかいけない。触れることは以前に比べたら躊躇なくできるようにはなったものの、積極的にスキンシップを図ることができる方ではない。ねだられれば、それに応えてあげることはできる。理由なく、というか自分の思いだけを理由に触れることはまだ少し難しい。彼女に自分の欲望だけをぶつけるような真似はできない。想いが重ならなければ、動けない。

「美海。」
「…はい。」
「お母さんに愛されてないって思ったことには納得がいったけど、お父さんは実家にいるんだよね?」
「そう…です。」
「お父さんにそういうこと、言われたの?それとも態度でそう感じたの?」
「…言われたことは…ありません。会話もほとんど…ありませんから。」
「会話が…ない?」

 彼女が俯いた。しばらく間があって、ゆっくりと口を開いた。

「実家には…大学でこっちに来てからは一度も帰っていません。」
「一度も?」
「…はい。会話が少なくなったのは…父が忙しくなった頃から…なので、小学校高学年の頃…からですかね。再婚してからは新しいお母さんと弟とは…食事が一緒だったので話しましたが、当たり障りのない話を…。父は帰りが遅かったので。」
「…なるほど。じゃあ美海の誤解な部分もあるのかもしれないのか。」
「誤解…ですか?」

 まだ望みはある。全てを諦めてしまうには早い。
< 175 / 234 >

この作品をシェア

pagetop