10回目のキスの仕方

初めての帰省

 クリスマスも終わり、いよいよ年末に差し掛かった。帰省するかを迷って、結局決められないでいる。
 そんな今日は久しぶりに圭介に美海の家に来てもらい、料理も美海が振る舞うことになっていた。

「できました!」
「…ごめん、全部やらせた。」
「いえいえ。私は今日、バイトありませんし、圭介くんはバイトでしたし。働かざる者食うべからずです。」
「真面目だな。…でも、美味そう。…いただきます。」
「はいっ!いただきます。」

 努めて明るい声を出していたのは、迷いを振り切りたかったからだ。年末と長期休暇は心が振れる。帰った方が良いのか、それともわざわざいらないと言われに行く必要はないのかと。

「生姜焼き、うま…。」
「味薄くないですか?」
「うん。美味い美味い。」
「良かったです。」
「片付けはさすがにやるから。」
「…はい。ではお言葉に甘えますね。」

 圭介の言葉に甘えることは、最近自然にできるようになった。あまり表情の変わらない圭介も、美海が素直だと少し口元が緩む。そんなことに気付いたら、甘えることが苦ではなくなった。
 食事が終わって、圭介が片付けている間、美海はスマートフォンを見つめていた。

(…帰ろうかなって…思うんだけど、な。)

 あと一歩の勇気が出ない。会えばわかることも、あるかもしれないのに。

「ここ、置きっぱなしでいいの?」
「あ、はいっ!自然乾燥で大丈夫です。」
「わかった。じゃあ終わり。」
「ありがとうございます。」
「食べさせてもらったんだからこのくらいは当たり前。」

 くしゃっと髪を撫でてくれる大きな手に安心して、思わず言ってしまいそうになる。そんな言葉は飲み込んだ。

「…美海。何か、悩んでる?」
「え…?」
「何か言いたそうに…見えたんだけど。」

 隠す方が無理だ。そんなことは最初からわかっている。

「…圭介くんは…すごい、ですね。」
「美海のことだから。見てればわかるよ。」
「…ちょっと、迷っています。」
「うん。」

 圭介の言った言葉を覚えている。全てを話したあの日に、可能性を捨てていないと言った。だから少しだけ、信じたい気持ちがある。
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