10回目のキスの仕方
「そういうところ、俺よりずっと強いよ。」
「…強く、在りたいとは思います。でも、私は全然強くないです。強く在れるとすれば、…それは圭介くんが私を強くしてくれたからです。」

 ずっと逃げてきたものに向き合う勇気が今ならある。それは、美海が元々もっていたものではない。
 向き合って、初めて見えたものがたくさんあった。父も一人の人間だったということ。あの時はとても先を歩いて、できないことなど何もないように見えた父も自分と同じだったということ。時が経てば解決することもあるということ。そして、一人ではない自分は、上手く笑えるということ。

「…好きです。…圭介くん、私、圭介くんのこと…。」
「…わかった。それ以上言わないで。ここで押し倒せないんだから。」
「へっ?」
「さすがに彼女の実家で押し倒すとか非常識すぎるだろ?…だから理性を崩壊させにこないで。」
「…ご、ごめんなさい…。」

 少し距離を置かれると寂しい。特に今日は感謝の気持ちと触れたい気持ちが止まらなかった。そんな美海の態度を見てか、圭介の方から取った距離を少しだけ縮めてくれた。

「…謝らせたいわけじゃなくて…。…何か調子狂うから。」
「え?」
「ぐいぐいきてくれるの、嫌じゃないんだけど。…むしろ、歓迎してるんだけど…。上手く対応できない。」
「…だから…そんな顔なんですね。」

 美海は圭介の頬をつんと指でつついた。

「…やめて。からかってるし。」
「…可愛いなって思って。」
「男に可愛いは褒め言葉じゃないから。」
「それ、越前くんにも言われました。でも、そう思っちゃったんです。」
「可愛く言ってもだめだから。」

 後退することも、前進することも、全てエネルギーがいる。迷いがあって、戸惑いがあって、勇気が必要で。
 それでも、今背中を押してくれる人がこの人で良かったと心の底からそう思える。この人の傍にありたいと思う自分は、まだまだ強くなれる気がする。

「…圭介くん。」
「なに?」
「…やっぱり同じ言葉しか浮かばないんですけど、聞いてもらっていいですか?」
「いいよ。」
「…ありがとうございます。…それと、大好きです。」
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