10回目のキスの仕方
【女湯】

「はぁー…いい気持ち。」
「本当ですね。一人暮らしのアパートだと、こんなに足を伸ばせないから気持ちいいです。」
「あはは、確かにね。」

 硫黄の匂いが少しだけする。この匂いを嗅ぐと温泉にきたのだという気持ちになる。

「圭介くん、ほんっといい男よねぇ。今日改めて思っちゃった。」
「ふぇ?」

 突然の話題変更に、変な声が出た。圭介のことを気に入ってくれてるからではあるが、圭介のことを自分が語るのは妙に恥ずかしくて、顔が熱くなる。

「空人の面倒もすごくよく見てくれるから私もこーんな楽ができちゃうわけだし、空人もこれでもかってくらい懐いてるし。それでいて、お父さんとも楽しそうに話してたりするじゃない?まぁ、気をつかいすぎて美海ちゃんと二人っきりにはなれてないかもしれないけど。」
「そ、それはいいんだって圭介くん、言ってました。」
「え?」
「あ…えっと、私とは向こうに戻っても一緒にいられるけど、私の家族とは旅行中だけだから、そっちが優先になると思うって。」
「…美海ちゃんはそれでいいの?」
「…そう、ですね。空人くんもお父さんも楽しそうだから…それでいいのかなって私は思います。」
「そっか。ならいいんだけど。あ、でも部屋は二人でとってあるから存分にいちゃついていいからね!」
「い、いちゃつかないです!」
「あら、どうして?」

 沙樹の細い指が美海の赤くなった頬をつつく。

「温泉と言えば浴衣。浴衣を脱がされるのってどきどきするじゃない?」
「ぬ、脱がされたことがないのでわ、わからないですけど…。」

 思えば、圭介と旅行というのはこれが初めてである。

「あらあら、美海ちゃんってほんっと可愛い反応してくれるわね…。」

 沙樹はにっこりと笑った。
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