10回目のキスの仕方
「あ、れ…?二人は知り合い?」
「…えっと…知り合い、というか…。」
「知り合いじゃないですよ、店長!この人、知らない人!」
「…あのねぇ、玲菜ちゃん。小学生より嘘が下手よ?」

 福島は苦笑いだ。美海はといえば、目が泳いでいる。

「で、どんな知り合いなの、美海ちゃん?」
「…あの…えっと…それが…何というか、説明が…。」
「あーもう!やっぱりあたしの嫌いなタイプの女だしー!」

 玲菜の感情は剥き出しだ。ぱっちりとした愛嬌のある目は鋭くなり、ボブの柔らかい髪が動くたびに揺れる。

「玲菜ちゃん、落ち着いて。」
「無理です店長!今後この人と同じシフトにしないでください!」
「美海ちゃんなんでー?なんでこんなに嫌われてるのー?」
「あのっ…そ、それがよくわからなくて…。」

 これはかなり美海の正直な気持ちだった。先ほど玲菜が言ったように知らない人ではお互いにないはずである。むしろ美海にとっては玲菜を知らない人と呼ぶ方が難しい。衝撃的な光景を見てしまったのだから。

「はぁ?なんでよくわかんないの?馬鹿なんじゃないの?」
「おーい玲菜ちゃん。それは言い過ぎ。ていうか、美海ちゃんの方が年上なんですけど?」
「年長者だからと言って、必ずしも尊敬には値しませーん!」
「減らず口。」

 自分はここまで嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。しかし、美海が振り返って考えてみても、玲菜と口をきいたことは過去に一度もない。顔を合わせたのもあの夜の一度きりである。あの夜で嫌われたのだとしたら、初対面の人に不快感を与える何かをしてしまったことになる。

「…あの…。」
「何よ。」
「…私、今初めて玲菜さんと会話をすると思うのですが…。」
「そうだけど。てゆーか、あたしは全然話したくないけど。」
「…どうして、ですか?」
「はい?」

 怯みそうになるが、なんとか堪えて口を開いた。

「…あの、私、そんなに嫌われること…何かしましたか?全く身に覚えがなくて…改善のしようが…。」

 この美海の言葉は、どうやら玲菜の逆鱗に触れたらしい。

「っ…あ、あったまきた!店長!残業するのでちょっといいですか!」
「…なぁんでいきなり修羅場よ~…。業務後にしなさい。」
「…もう!」

 イライラした様子の玲菜を見つめて、福島は美海に耳打ちした。

「ねぇねぇ、どうして人畜無害そうな美海ちゃんがこんなに嫌われちゃってるの?」
「…私が知りたいです…。」
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