10回目のキスの仕方
 新入生歓迎会が始まって1時間半。美海の担当であったテーブルでは、王様ゲームが始まっていた。こういうものに経験のない美海もルールは一応知っていた。誰が用意したのかもわからない割り箸を引く。

「「「王様だーれだ!」」」
「わ、私です…。」
「王様、自己紹介!」
「っ…ま、松下美海です。2年生、です。」
「うしっ!じゃー王様!ご命令を。」
「め、命令…え、えっと…じゃあ、1番さんと2番さんが…握手、する。」
「それ全然命令になってなーい!」
「松下さん天然!?」
「ち、ちがっ…!」

 かぁっと熱くなる頬を抑えたくて、手近にあったグラスを飲み干した。少しピリッとする感じは、ひょっとしなくても酒だ。熱かった頬がさらに熱くなるのを感じる。

「んじゃ引き直すか!みんな戻してー。」
「はぁーい。」
「わ、私、トイレ行ってきます!」
「いってらっしゃーい。」

 美海はふらふらする身体をおさえて、トイレに向かった。そこには、男が一人立っている。

「んー…?あ、かーわいーねぇーきみ。名前、なんてゆーの?」
「へっ?」

 腕を掴まれて、相手の顔を見ると顔は真っ赤で、目はとろんとして少し充血している。そのくせには、美海の腕を掴んだ手の力は強い。

「っ、は、離してください!」
「名前、教えてって~。

 完全に酔っ払っている。こんな人にこんなことをされたことなど、美海の人生を振り返っても過去に一度もない。それゆえにどう対処するべきなのかわからない。ただ、今のこの状況がものすごく不快であることに違いはない。

「えっ…。」

 気が付くと、背中に壁を感じた。両腕は完全に抑えられ、顔が近づいてくる。

「っ~…いや…ですっ…!」

 顔を背けたけれど、少し遅かった。唇の端に、触れられた気がする。

「…酔ってても、そーゆーのはまずいんじゃないの。」
< 5 / 234 >

この作品をシェア

pagetop