10回目のキスの仕方

不出来な教え子

* * *

 夏休みも近付いた7月の中旬になった。圭介はというと、玲菜の家庭教師に来ていた。

「…なんでこれ、わかんないの。」
「数学なんて嫌い。圭ちゃんは好きだけど。」
「どっちも聞いていないから。」

 玲菜の告白回数(これをいちいち告白ととっていいのかはこの際置いておく)は家庭教師の回数を重ねるたびに増えているような気がする。そんなことよりも、成績をどうにか改善してもらいたいというのが圭介の本音ではあるが、それをどれだけ伝えようとも玲菜には全く浸透しないのが目下の悩みである。

「松下美海と、何もないよね?」

 突然美海の話題をこうして家庭教師の時間帯に切り出されたのは初めてだ。

「…なんで松下さんのフルネームを知ってるの?」
「っと…それは…。」

 玲菜の目が泳いでいる。玲菜は基本的にはわかりやすい。

「ストーカー?」
「ちっ…違うっ!バイトが…一緒で…。」
「え、バイト?玲菜お前…バイトなんかしてたのか?」
「…週に2回だけだし、テストには支障ない…と思う…。」

 段々声の小さくなる玲菜に呆れてため息が出る。

「金より勉強が優先だろ?留年するよ。」
「そこまでひどくないよ!」
「って言いたいなら、せめて中学生レベルの数学はノーミスで解いて。」
「圭ちゃん、質問に答えてない。」

 数学の問題文を読み解く力は全くないくせに、こういうところは鋭いのだからタチが悪い。

「…何もないよ。ってこれ、答える必要ない質問だと思うんだけど。」
「あるよ!」
「なんで?」
「だって…最近変だし!」
「変?玲菜が?」
「ちっがーう!松下美海が。」
「松下さんが…?」

 体調が回復し、講義で顔を合わせる以外には特に何も会話をしてはいないが、その時に変わった様子もあまり感じなかった。何かあったのだろうか。
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