10回目のキスの仕方
「ねぇ、圭ちゃん。」
「今度は何?」

 ゆっくりと立ち上がって勉強机から離れる玲菜に、次は何が起こるのかと身構える。すると、玲菜は今までに見せたことのない笑みを浮かべて、ゆっくりと服のボタンをはずし始めた。

「玲菜。」
「あたしを彼女にして。」
「…本気で言ってる?」
「あたしはいつでも本気。」

 不出来な教え子が、さらに過ちを犯そうとしていることは明白だ。どこでそういう知識をつけるのかは知らないが、今時はどうやら女から誘うのもない話ではないらしい。
 当の玲菜はベッドに腰掛け、キャミソールに手をかけ始めていた。このあたりで止めなくてはならない。そう思って圭介は立ち上がった。ゆっくりと玲菜に近づき、その腕を掴んだ。

「圭ちゃん?」
「玲菜、こういうことはちゃんと相手を選ばないと。」
「だから、選んでるよ!あたしは圭ちゃんが…。」
「玲菜を一番に望んでる人じゃない人に、身体許していいの?」
「っ…。」

 傷つける言葉をあえて選んでいるつもりもない。だが、正しく伝えるためにはこういう言葉を使うしかない。自分がもっと優しい男ならば、優しい言葉を選んであげることも、この場で玲菜の願いを叶えることもしてあげたかもしれないのに。

「玲菜。」
「…なに…?」
「考えなしな行動、とらない方がいい。力では男にかなわない場合の方が多いと思う。」
「そんなこと…。」
「じゃあ、これをはねのけられる?」

 玲菜の腕を掴んだまま、強引に押し倒す。本意ではないが、言語での理解力の低い玲菜に対しては、体感させた方がよいというのは、家庭教師の経験からくるものだ。

「っ…。」

 玲菜の顔が少し歪んだ。

「多分、思ってるより男は重いよ。そして衝動的で、理性よりも本能に従う生き物だ。」
「…圭ちゃんなら、…いい、もん。」
「あー…全然わかってないな。」

 圭介は力を緩め、玲菜の上から退いた。全くこの高校生は自分の本意を理解してくれそうにない。
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