10回目のキスの仕方

多分好きだから

* * *

 7月の下旬と言えば、大学生にとっては試験シーズンの到来である。

「っしゃー終わった!」
「終わったのは洋一だけ。あたしと美海はあと2つあるし。」
「浅井さんも今日で終わりですか?」
「いや、俺は明日で最後。」

 あの日、圭介の前で泣いてからは玲菜の話題を一切口にはしていない。今まで通りの距離を保ちながら、他愛ない話を少しはする程度の関係を維持していた。

「というわけで、俺は提案します!夏らしいイベントをすることを!では皆さん、夏と言えば…?」
「お祭り!」
「祭りもいいな!ぜひ浴衣で…でも今回はちがーう!はい、浅井。」
「…かき氷?」
「色気より食い気か!違う!松下さん!」
「え、えっと…う、海…?」
「惜しい~!じゃん!」

 洋一がリュックから取り出したのは線香花火だった。

「今日はこれしか買ってないけど、もっと買い足してやろうと思って!花火!」
「うわー…懐かしい、線香花火とか。」
「…懐かしいです…。」
「うん。」

 いつの間にか美海の隣にいた圭介は口元を小さく緩めている。最近の圭介はやたらに目が優しくなったように美海には感じられた。

「で、やる?」
「やるやるー!ね、美海!」
「やりたいです。」
「…じゃあ参加。」
「よっしゃ!全員今週でテスト終わり?」
「うん。あたしと美海は同じだし。浅井サンも明日でしょ?」
「うん。」
「じゃあいつにする?土日は?」
「あたしバイトは昼間だから夜は大丈夫。」
「私も土曜日は大丈夫です。」
「土曜、大丈夫。」
「よし、じゃあ土曜の夜7時、〇〇海岸で!」
「わかった!」

 とんとん拍子で決まっていく夏らしいイベントに、胸が高鳴る。こんな風にワクワクする気持ちを抱えて夏を迎えるのは初めてかもしれない。

「じゃああたし、ちょっと友達と会うから先行くね。」
「うんっ!明季ちゃん、またね。」

 明季の背中を見送ってふと振り返るといつの間にか洋一もいなくなっていた。残っていたのは圭介だけだ。

「今日はこれで終わり?」
「あ、はいっ!あ、でも、図書館でテスト勉強をしようと…。」
「あー確かに。大学の図書館?」
「はい。」
「…俺も行く。…行こう?」
「はいっ!」

 圭介と一緒の時間に感じる緊張感が少しずつ減っている気がする。それは美海にとってとても大きな成長だ。
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