レオニスの泪
ーく、暗闇よ、どうか、隠してください。
そんな願いは、街灯が立ち並ぶこの道で、通じることはない。
「…ね、眠いんですよ。早く帰って寝ます。」
パパッと顔を逸らして、なんとかそれだけ言うと、さっきよりもペースを上げて歩く。
「祈さ…」
「そっ、それより、大変ですね!先生って!いつも帰るの遅いんですか?」
これ以上、何かまずいことを訊かれては堪らない。
私は無理矢理話題を振って、神成よりも半歩先を行く。
「…うん、まぁね。夜勤じゃなかったから、まだ今日は良いけど」
「へぇ!夜勤なんかあるんですね!」
ーあぁもう。
この話題は、長く続いてくれそうにない。
ーどうにか時間稼がないと…
「あ、えと…じゃあ独り身だと大変ですね!」
ーあ。
「………」
地雷、踏んだ。
さーっと血の気が引いて行く音がする。
公園から家までの距離は、10分もかからない筈だが、時間は止まったのだろうか。それとも、道が延びたのか。
何故、着かない。