レオニスの泪
まずい事態に陥った。
そのせいで、足取りは、背後の反応を気にして遅くなってしまう。
そういえば、今日、神成の薬指に光るものがあっただろうか。
ふと疑問が過るが、見るに見れない。
なぜなら、とにかく、気まず過ぎるからだ。
「あの、すみませんでした…」
段々と低速になって、結局立ち止まって、振り返る。
ポケットに手を突っ込みながら、神成は相変わらず笑っているような顔をしている。
だが、微かに、驚いているようにも見えた。
「ー何が?」
謝罪への理由を問われて、私は一瞬俯くが、すぐに顔を上げて。
「診察の時、失礼なこと言って」
はっきりと、自分の大人げなさを認める。
「…余裕がなくて。八つ当たりしました。」
向かい合った二人の間を、枯れ葉が二枚、転がっていく。
「祈さんは、素直なんだね」
ややあって、神成が、ふわりと笑う。
それを見て、やっぱり、さっきのは真顔だったのか、と確信した。