レオニスの泪
「別に、素直じゃないです。」
今度も、私から視線を逸らし、前に向き直る。
ゴールまで、あと少し。
「全然、素直なんかじゃないです。」
落ちる吐息も、白くならないこの季節は、溜め息の実感が湧かない。
元々自分は捻くれている。
そんなことは言われなくても知っている。
だからこそ、今迄、「助けて」の一言が言えなかった。
「できない」と言わなかった。
「大丈夫」だと言い聞かせてきた。
それなのに。
「いや、十分素直だよ。そうやって謝れるんだから。」
神成は、私を素直だと言う。
数回の診察で、そうじゃないことを知っている筈なのに。
「ふざけてるんですか?」
若干居心地の悪さを感じて、振り返る。
だが、待ち受けていたのは、真顔の彼だった。
先程よりも、強くなった風が、神成の前髪を揺らす。
「ふざけてないよ。」
やがて、視線を重ねたまま、彼は僅かに首を振った。