レオニスの泪
私はそのまま、その場に立ち尽くして、神成のゆったりとした動きを目で追った。


半歩ズレていた歩幅が、また、隣り合う。


「大人になると、言いたくても言えないことと、言いたくなくても言わなければいけないことが、増えてくると思わない?」


問い掛けるように首を傾げて、少し下から、見上げる神成。

子供のような、大きくて、きらりと光る瞳が、際立っているのに気付いて。


あぁ、眼鏡を掛けていないんだ、と。


遅ればせながら気付いた。




「……」



何も応えることなく、見つめ合うこと数秒。



「祈さんは、思っていることが、顔に出やすい」


神成が、悪戯っぽくニコっと笑った。


「なっ!!~それって、別に素直とかじゃなくて、隠せてないってだけじゃないですかっ??子供っぽいってことですよね?」


子供扱いされたようで、ほんのちょっとだけ、悔しさがこみ上げる。


だが、童顔の彼は、童顔の癖に、感情が読み取りにくいと知っているせいで、反論は出来なかった。


所詮相手は精神科医なのだ。


勝てっこない。



「…子供っぽいとは言ってないけど…子供なら子供で、感情を全て出せれば良いのに」




そうして、どちらからともなく、また歩き出す。




「…祈さんは、反対に隠してしまっているものも、あるよね。」



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