レオニスの泪



それはまさしく神成で。


心臓を突かれたかのようなダメージが、私を襲う。



ーな、んで。



呆然として、立ち止まってしまっていた足が、神成の姿に誘われるようにして、再び動き始めた。



一歩、一歩、近付くごとに、速さを増して、最終的には小走りになっていた。



「………」


一心に空を見つめる彼の前で立ち止まって、その頭の上に、自分の持っていた傘を差しだす。



それに気づいた神成は、空から視線を外し、ぼんやりとした目で私を見つめー



「…来て、くれたんだ」



そう言って、笑った。



「ーっどうして…」



なんで、そんな風に言うの。


なんで、待ってるの。



放って置いてくれれば良いのに。

こんな私のことなんて。


あのままさよならしてしまえば良かったのに。

あの時さよならしなかったからー




カタン、と傘が手から落っこちた。




無意識、ではない。

でも、無意識かと思うほど、勝手に身体が動いて。



気付けば、真正面から、神成の頭を引き寄せ、抱き締めていた。




ザァザァと雨音が変化する。




雨で濡れた相手の髪の感触が、自分の掌に伝わって、何故か泣きそうになった。


< 170 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop