レオニスの泪
こないだよりペースの速い私達。



ーもう、着いたんだ。




直ぐにアパートの階段に付いている切れかけた電灯が、チカチカと光っては消え、消えては光り、を繰り返しているのが見えてくる。



常識外れの時間帯に、脳がついていっていないらしく、礼儀としてお茶でも淹れた方がいいのか、なんて考えが浮かび、慌てて打ち消した。


今回は、最後まで隣に並んで歩く事はなくて、私より半歩先に神成が家の前に辿り着く。




「それからー」


「?」



一定のリズムで光り、消える無機質な光を背に、神成が振り向くから、またしても、顔はよく見えず、思わず目を凝らした。




「僕の大切な人はーもう、居ない」





だから、大丈夫なんだよ、と。


付け足すように言って。


言葉を失った私に、またねと背を向けた。



ーいない、って…




追い掛けようと思った自覚はないが、足が僅かに動いた。


けれど、追い掛けてどうするの、と理性で制した。




いつもと少し違う神成に、戸惑い、その姿を最後まで見届けることが出来ない。




ー大丈夫って、言った…




何故かやるせなさが浮かんできて、俯けば。



足下の水溜まりに映った小さな月が、私を見つめていた。
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