レオニスの泪
精神科医は、患者と恋愛関係にはならない。
稀な例でそう言うのがあったとしても、僕の周囲では一切聞いた事がない。
患者が医者に好意を寄せる例は実はとても多い。
家族にすら理解してもらえない思いや行動を受け容れて貰えるのだから、そういう感情は抱きやすいといえばそうなのだが。
患者は、本来であれば実の親にして欲しかった役割を、医者に押し付けて安心感を抱いたり、時には恋人に求める感情をぶつけてくる事もある。
疑似恋愛や、疑似家族、親友代行。
擬似と言うように、そのどれも、本物ではない。
いや、本人は皆、本気だと思い込んでいるが、実はそうじゃない。
何故なら、彼等は皆『病』に罹っているからだ。
それを上手に受け容れ、かわし、治療を進めていく。
自立して進むべき方向を教えてあげて、個人で対処できるようにしてあげる。
だからこそ。
患者とは近しい関係になればなる程、自分自身の身が危うくなる。共倒れしてしまう結果になり兼ねない。
よって、必ず一線を引かなければならない。