レオニスの泪


世間は、社会は、私に今まで何かしてくれただろうか。
理不尽にしか働きかけてこなかったではないか。

狭い。
窮屈だ。
世界は、息苦しい。



「ーあ…よかった。」


ー玄関の前に、誰か居る。

そう思って、顔を上げると、相手は目尻に皺を寄せて、人懐こい笑顔を見せた。
手には、花束。
薄い、黄色の。


「体調悪いって、聞いたから、お見舞いに来たんだけど、留守みたいだからどうしようかと思ったんだ。」


相手はどんどん話すけど、私は上ってきた階段を後ずさりする。


「そんな怖い顔するなよ。取って食うつもりじゃないし。本当に様子見に来ただけだから。一応、上司として。」


「…こ、来ないで下さい…、木戸さん。」


階段を下りてこようとする木戸に、拒否反応が出るが、木戸は気にする素振りがない。

「あ。」
「危ないっ!」


ガクン、身体がよろめく。


階段を踏み外した私は、このまま死ねるならそれでもいいなんて、親として本気で無責任な願望を抱いた。

もう、全部から解放されたかった。









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