レオニスの泪

涙なんか出ない。

ただぼんやりと、本当にぼんやりと、現実はなんて上手く行かないことばっかりなんだろうと呪った。

自分の欲しいものは全て後回しにしてきた。
今回は欲しいと思うべきじゃないものを、欲しくなった。
そんな自分に呆れて物も言えない。
渇望は常にあったのかもしれない。
だけど、寄り掛かろうとする相手なんかいなかったし、現れなかった。

そう考えると、一番辛い時に現れたあの人は。
なんてタイミングよく現れたんだろう。
それだけは、ここ数年の中の、稀に見る幸運だった。

最初から分かってたような気がする。
好きになってしまいそうだったんだと思う。

だから、嫌って。
だから、指輪に嫉妬して。
だから、嘘に憤った。

そんな矛盾する感情を持っていた。


「見なければ、欲しいなんて思わなかったのにな…」

近所の目を思い出し、結局アパートの階段を上りながら、呟く。

宣伝広告だって、見れば欲しくなると分かっているから、必要最低限のものしか見ないように気を付けていた。

欲しくなると、手に入らないことが辛くなってくる。

手に入らないと、何が何でも欲しくなる。

でも、絶対に手に入らない。

今迄もずっとそうだった。


私は、いつも、上手く行かない。
いつも、何かに追われてる。
自業自得だと思って受け入れてきた。
でもそれは、本当に全部私のせいなのかな?

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