レオニスの泪
階段を上りながら、軽い息切れを感じるけれど、そんなのは気にならない。


玄関の鍵穴に鍵を差し込み、静かに回すつもりが、心臓のリズムが上下しているせいで、自分の手も上下してしまう。




ー落ち着け、自分。明らかに違う人でしょ。あの人がどこに住んでいるかわからないけど、この時間にこの近辺にいるのだっておかしいんだし。



やっと鍵が差し込めた所で、中から小さな泣き声が聞こえ、我に返った。


慌てて中に入ると、布団の上、黒い影がもそもそと泣いている。



「慧!」


直ぐに傍に駆け寄って、抱き起こす。


足元を照らす僅かな光の中、目を瞑ったままの、我が子は、どうやら悪夢にうなされているらしい。


涙をぽろぽろと流しながら、びっしょりと汗をかいていた。



「どうした~?ママだよ。安心していいよ、慧。」


自分の不在に気付いての泣きじゃないことに、安心しながら呼びかける。


これまでの経験上、こうなってしまった慧が、このまま落ち着くということはない。



「慧、起きてごらん。慧、慧。」



完全に起こして、寝直してもらった方が、本人にとっても、私にとっても、楽なのだ。
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