レオニスの泪
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翌日、火曜日。


「…で、、何なの、その顔は。」


前回は午後だったのが気に入らず、午前に予約をねじこんでもらったのが裏目に出てしまった。


「おはようございます。別に普通の顔ですけど。失礼ですね。」



準備時間が短く、上手く自分の中で気持ちの整理が出来なかった。



「いや、普通じゃないでしょ。その仏頂面。ていうか、何なの、その目。」



一ヶ月前と同じ診察室で、同じ向きの机で、同じ姿勢で、ベビーフェイスは私を不思議そうに見つめている。


私はその頬が赤く腫れていないか目を凝らしている。


幸い、というべきか彼の頬は前回と変わらずつるつるとしている。


しかしその声が昨夜、いや今日、つい数時間前に聞いた声なんだから、動揺しない訳が無い。



「この目は生まれつきです。」


「今までと違うけど。」




ー既婚者の癖に、あんな時間に他の女といるなんて…



今日もまたキラリ光る指輪が、一段と忌々しい。



「ねぇ、何睨んでるの。」


「はっ、いや、睨んでないです、何も。」



無意識の行動に気づき、慌てて首を振る。




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