【完】向こう側の白鳥。








そのことよりも、自分の中で揺れる気持ちが不愉快だった。





一ノ宮先輩は大の苦手……。



男の人の中でも、特に苦手。





……はずなのに。





手の平を合わせただけの優しい繋がり。



何気に歩いてくれた車道側。



逸れてないか、時々振り返ってくれた人混みの中。





私は“彼女”でもなければ、“友達”でもないのに。



ただの“後輩”にしか過ぎないのに。





……まるで愛おしそうに接してくる先輩に、度々、私の心臓は高鳴っていた。





帰り際、先輩に帽子と今日一日の御礼を言ったとき。



先輩は甘く私に零した。





「また部活で。」








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