幕末オオカミ 第三部 夢想散華編


「もう、せっかく来てくれたのに。その態度はないんじゃない?」


平助の姿が見えなくなるなり、楓が俺に詰め寄った。


だって……なんて返したらいいのかわからなかったんだ。


近藤先生を失って、俺の判断力はまったく働かなくなってしまった。


「……せっかくだから、ご飯焚いてくる」


今日も会話にならないことをさとったのか、楓は悲しそうな顔で背を向けてしまった。


気丈にふるまっているけれど、あいつが夜更けに一人ですすり泣いていることを、俺は知っている。


なのになぜか、楓を励ますだけの気力もわいてこなかった。


「これじゃ、死んでるのと同じだな……」


生き延びたって、主君と言える人をなくしてしまった俺は、屍と同じ。


戦う意味を見失った。

戦うことしか知らなかったから、生きる意味も見失った。


ああでも、楓のことはなんとかしてやらなくちゃ。


近藤先生を助けることができなかったため、銀月との約束はなくなった。


人間としてこのまま果てるなら、楓の身の振り方を考えてやらなきゃ。


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