幕末オオカミ 第三部 夢想散華編


斉藤先生は一時御陵衛士として屯所を離れていたため、普通の顔で戻ってきたことをよく思っていない隊士も多かった。


まあ、間者として入り込んでいたという事実は幹部にしか知らされていないから、無理もないけど……。


「よく戻って来れたよな」

「しかも、何食わぬ顔で幹部の席に戻ってるし」


そんな陰口をたたかれているのを見かけたことがある。

けれど、斉藤先生は堂々としていて、いつもの涼しげな表情を崩さなかった。


「そういえば、近藤局長は?」

「二条城で、お偉いさんと会議とか言ってただろ」


さすが総司。局長の予定はちゃんと把握してるのね。


「そうか、お供させてもらえなかったから機嫌が悪いのか」


斉藤先生がさらりと言い、総司は飲みかけたお茶をふいてしまった。


「てめえ、誰がなんだって?」


総司は吐血こそしていないけど、ひどくせき込む時がたまにある。


だから、今はほとんど屯所の中で大人しくして過ごしていた。


局長もそんな総司に気を遣って、他の人にお供を頼んだんだろう。


「近藤先生はさ、過保護なんだよ。命令に背くわけにはいかないから、仕方なく留守番してんだ」

「そういえば、もう戻られても良いころだが……会議が長引いているのだろうか」


< 3 / 365 >

この作品をシェア

pagetop