幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「に、錦の御旗だーーーーっ!」
敵なのか、味方なのか……誰の声だかはわからなかった。
ただその言葉だけが、空気を震わせる。
錦の御旗……?
振り向くと、山頂の方から赤い旗が風になびきながらこちらに近づいてくるのが見えた。
それを持っているのは、洋装の兵士。新政府軍だ。
「錦の御旗……」
赤地に金色で菊の御門が描かれているその旗は、この国の絶対的権力である朝廷の正式な軍隊であるという証。
「徳川は……賊軍になっちまったのか……」
近くにいた隊士たちが戦意喪失し、その場にへたりこんでしまう。
「そんな……」
たしかに、最初から新政府軍は天子様を利用して新政権を樹立した。
それ以前から、朝廷をどうにかして味方につけていたのだろう。
けれど、まさか300年も朝廷と共に天下を治めていた徳川が、天子様に楯突く逆賊の汚名を着せられるだなんて。
本当に、その権力をすべて奪われる日が来るだなんて、誰が予想していただろう。