幕末オオカミ 第三部 夢想散華編
「もう、これ以上無駄な犠牲者を増やしたくはない」
「上様……」
「敵の勢力は予想以上だった。鳥羽伏見で、多くの幕兵が死んでしまった……」
数の上では優勢だった旧幕府軍が敗れたことが、上様にとっても衝撃的だったんだ。
でも、自分の誠を貫いて散っていった彼らを、『無駄な犠牲者』だなんて言ってほしくない。
彼らの死を無駄にしないためにも、上様には全力を尽くしてほしいのに。
「おまえたちももう諦めて、恭順の姿勢を示すがいい。
抗戦すれば、死人が増える。戦に負ければ、新政府によるひどい迫害が待っているだけだ」
上様は疲れ切った顔でうなだれた。
彼が言っているのは、ただの怯懦に聞こえなくもない。
けれど、武士の矜持を捨ててしまえば、それがきっと真実なんだ。
抗戦すればするほど、この先の生き延びる道は険しくなっていく……。
「けど、負けると決まったわけじゃありません!
上様がシャキシャキ指揮を執ってくだされば、旧幕府軍はきっと勝てます!」
「楓……」
「あっちが銃で来るなら、こっちだって洋装で銃を使えばいいんです。ねっ、元気を出してください!
上様は禁門の変でも勝ったし、やればできるんですから!」