僕は悪にでもなる
あーこうやって死んだのか。
あー俺死んでたんだ。

それでこの真っ暗で何も見えない静寂閑雅な場所に。
どんよりと寒気が走るような重たく奇妙な空気。

実態がなくここがどこなのかわからない。
魂だけが浮かんでいる。
無声無臭の空間。

とにかく悲しい人生だった。
悔しい人生だった。
格好悪い人生だった。
無念極まりない。
幼きころに失った愛と掴んだ悪

悪から引き継いだ復讐心。

悪のままに悪のままに過ごしても
はざまに見える愛と希望。

探り探りに生きていく自分。
試すように、確かめるように。

また出会ってしまった一輪の花
また掴んでしまった深い愛

またはまってしまった臭い沼
また掴んでしまった深い悪

負けそうで沈みそうで
それでも守り続けたいと願った一輪の花

でも勝てなかった。
また負けてしまった。
また逃げてしまった。
首に縄をかけた時、救われた愛の音色。

懲りずにもう一度もう一度と立ち上がり離さない一輪の花
離さない深い愛。

強烈な悪が牙をむき、次々と追ってくる悪に立ち向かう。
次々に向かってくる試練に立ち向かう。

でもまた、負けた。
自分の全て。最後の愛を失い、また、自分をあきらめた。

それでもまだ咲く愛の花。
それでもまだ消えぬ臭い毒。

また負けた。

今度こそ全てを失った。
今度こそ自分を捨てた。

最後に最後にわずかばかりの愛を残したい
わずかな悪さえ残したくないと願ったのに

結局残せなかった愛。
残してしまった悪。

少女に与えた深い憎しみ。
自分が見てきた大井。
その悪に自分がなってしまった。
少女の目には、記憶には、そんな自分が映っただろう。

空美に背負わせた深い悲しみと悪。
直樹に残してしまった深い悔しさと悪。

無念際わりない終わり方だ。

俺は直接的に2人を殺し
間接的に5人の命を奪った。
数えきれない人たちを傷つけ、
苦しみを残してここにいる。
これから地獄に行くんだおろう。

これじゃあもう虹美には会えない。

会えなくてもいい、地獄に行ってもいい

何より虹美が安らかに眠っていること
空美が幸せに暮らせていけること

自分には何もいらないからそれだけを祈った。

一つ手に入るのであれば、これだけもらうことができるのなら、
どれだけ幸せだろう。

例えば誰かに聞かしてくれればどれだけ安心するだろう。
虹美が安らかに眠ってくれていることを
空美が幸せに生きていることを

後は何もいらない。それだけ聞かせてくれれば。。。

死んで尚、魂が最後に純粋な愛を感じさせてくれた。
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