掠れた声で囁いて
そうやってしゃがみこんでいる脇で電車は何事も無かったかのように通過していく。
その電車を見送って、震える身体を抑えるように深呼吸をした。
そんな姿を見られているとも知らずに。
その日から度々痴漢をされるようになった。されるようになってから、周りをよく見るようにして気づいたことが一つある。
それは、自分の座ってる前に立つのがだいたい同じ中年男だということ。
その男の視線はいつも自分の腿に向かってる。何故今まで気付かなかったのだろうか。
こんなにもあからさまだというのに。
その目が気持ち悪くて乗る車両を変えたが、すぐにいつも探し当ててくる。だから諦めた。嫌らしい視線に晒されても、君悪さを余計に感じるよりはマシだと思ったからだ。
その代わり立つようなことがあったら、すぐに移動するように心がけた。流石に自分の後をついて一緒に動くのには抵抗があったらしく、ついてはこなかった。
そのことに安心して単語帳を開く。それが悪かった。油断していたのだ。
ドアが開いて人が乗り込んで閉まる。
そして、鼻が嗅ぎ取った油臭さに、体が強張った。
ドアに押し付けるようにして身体を密着させてくる。満員電車だ。そのぐらいで文句は言えないのだが。お尻を触っているのは明らかな痴漢行為だ。
その時になって失敗したことに気付く。こちら側のドアは自分の高校の最寄り駅まで開くことはない。しかも超満員状態で、反対側のドアに逃れることもできない。