掠れた声で囁いて




 そんなタイミングに限って、よろよろ歩くおばあちゃんが乗り込んでくる。
 目の前に立たれた人は一瞬チラリと見て、すぐにスマホへと視線を戻す。ほんと腹立たしい親父だな。


 抱えていた鞄だけ自分のいた席に置いて立ち上がる。ちょっと遠くにいたおばあちゃんに手招きしてこっちこっちと教えながら、おばあちゃんと私の間に立つ人にぺこりと頭を下げる。
 立ってたお兄さんは快く道を作ってくれた。結構かっこいいお兄さんだ。イケメンは心までイケメンだ。あんな腹の出た親父とは全然違う。


「どうもありがとうねぇ」


 無事席についたおばあちゃんは笑ってお礼を言った。かわいいおばあちゃんだ。


「いえいえ」


 この笑顔を見れるなら、自分の気持ち悪さなんて我慢できる。

 そう思った瞬間、私の顔が引き攣ったのが自分でも分かった。

 誰かが私の腰を摩ってる。この満員電車の中触れ合わない方がおかしいのだから……そう思って我慢するが、その手は突然お尻の方に回った。


「——!」


 その手が乱暴にお尻を鷲掴む。これ明らかに痴漢だ。


 どうしよう。やめてくださいとでも言った方がいい?それとも手を全力で抓った方がいい?
 

 考えるうちにどんどん気持ち悪くなっていく。
 その時タイミングよくドアが開いたので、慌てて飛び降りる。
 そして、しゃがみこんで息をつく。そんな様子のおかしい私を皆がチラリと見るが、声もかけずに乗り込んでいく。声をかけられたらかけられたで困るのだが……にしても冷たい。



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