掠れた声で囁いて
逃げられない。その事実に愕然とする。
「……!」
抵抗しなかった私に気をよくしたのかその手はスカートの中に入り込んで、内股を摩りはじめた。
全身が悪寒に包まれる。
油臭さにも耐えられない。息がしづらく、かと言って思い切り吸い込めば咳き込んでしまいそうになる。
「ゃめ……」
耐えきれず声を出そうとした私の口に男は何を思ったのか指を突っ込んだ。何処を触ったのかも分からない指を。
気持ち悪い!
自分の目に涙が浮かぶ。
助けを求めて隣に立つ人を見ても、その人はスマホの画面に釘付けでこちらを一度だって見ることがない。
男は更に助長して、下着の中に手を入れてきた。
やだやだやだ!
首を振って、訴えても男の鼻息が荒くなるだけ。
男の手がゆっくりと上がっていく。
自分でも触ったことのない場所に向かって。
触れる寸前、脳裏に浮かんだのはあの人の優しい笑顔だった。
「うぐっ」
鈍い音の後、気持ちの悪い手が引き抜かれた。
「来い!」
今聞きたかった声。
潤む視界に映ったのは、思い浮かべていたまさにその人で。
何が起きたか分からないまま、その腕に包まれて電車を降りた。
その肩を押しのけるように誰かが走っていく。
痴漢した中年だった。
呆然とその姿を見る私の視界が塞がれた。