アロマティック
 本当に仕事なの?
 失恋のショックは癒えたの?
 穏やかに流れる時間を壊すのが怖くて、聞けなかった。

「うわっなになに!? 超ラブラブじゃん」

 その声に顔を上げると、入り口のドアから聖が慌てた様子で、背を向けて消えて行くところだった。
 置き土産の言葉が、ラブラブ。
 改めて腿に頭を預ける永遠を見た。長い手足を伸ばして、寛いだ様子で横になっている。
 ラブラブ。
 膝枕していると、そう見えるんだ……。
 って、普通に考えてみれば、仲良く見えるのは当たり前? もし、わたしが聖と同じ立場だったら、同じような感想を持つかもしれない。
 でも、わたしの感覚としては、初日からしている膝枕。すっかり慣れてしまった。
 永遠が自然体で触れてくるから。
 嫌味のない触れ方に、躊躇する間もなく、永遠のペースに巻き込まれ、やがて、それが普通になってしまった。

「なんでよりによって聖ちゃん来るかなー。これで眠れなくなったじゃん、ちくしょー」

 腿に頭を乗せたまま、永遠がぶつくさとぼやいた。
 わたしたちを見て、遠慮して慌てていなくなったように見えたけど、違うの? 永遠のぼやきに首を傾げたみのりが問いかけようと、口を開きかけたとき、再びノックもせずドアが大きく開いて、聖が顔を出した。
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