アロマティック
 この状況にまるで相応しくない永遠の態度に苛立ったみのりは、勢いをつけて立ち上がる。永遠の頭が、物凄い音を立てて畳の上に落ちた。

「いっ……てぇ!」

 すぐさま頭を抱え痛みを堪える永遠が、くの字になる。
 一部始終を見ていた4人は顔を背け、堪えきれずに吹き出す。

「くっそー……お前ら覚えとけよ。だいたいなんで聖ちゃん、邪魔しに来たんだよ」

 ぶつけた後頭部を、悔しそうな表情で撫でながら永遠が問う。

「やっぱりさ、直接お礼いおうと思って。ね、みのりちゃん」

 自分の喉元を指さし、ニカッと大きく笑った聖がウインク。その声はいつも通り張りがあって、調子が良さそうだった。

「アロマが持つ効果、ちょとでも喜んでもらえたらそれだけで充分だよ」

 聖の言葉が嬉しくて、みのりは笑顔を返す。

「またお願いしてもいいかな?」

「いつでも。お気軽にどうぞ」

 アロマの話しになると、まるで自分のことのように喜ぶみのり。喜びにあふれる心からの笑顔は、眩しいくらいの輝きを放っていて目が離せなくなる――。
 永遠は見とれた。
 いつまでも起き上がる様子のない永遠の、下から注がれる真っ直ぐな視線。みのりが永遠を見て、目が合った。

「………」

「………」

 何を考えているの? 頭を打ったとき、そんなに痛かったのかな? 謝るべき? みのりは悩んだ。

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