アロマティック
 永遠は見とれていたことを認めたくなくて、ごまかす為にとっさに、

「非常に残念だ……」

「え?」

「なんでスカートじゃないんだ」

 永遠が頭を打ち痛い思いをさせた責任を感じて、かがみこむ、みのりの動きが止まる。聞こえてきた言葉に耳を疑った。

「永遠くん……踏んづけられたいの? それともいたぶられたいの?」

 腕を組んで目を細めるみのりの声は、ナイフのように鋭い。

「やば。みのりがキレた」

 危険を察した永遠が慌てて起き上がる。
 ラブラブという言葉を否定しなかったことといい、心配した人の気持ちも知らないで、あっけらかんとしている。
 どういうつもりなの? いろんなことがありすぎてこれ以上抱えきれない。あふれた気持ちはみのりを蝕み、苛々が募っていく。
 気持ち、落ち着けなきゃ。
 みのりは大きく息を吸って吐いた。
 それでも気持ちは収まりそうにない。このままここにいたら、本番前の皆に迷惑をかけてしまいそうだ。

「……ちょっと、外の空気吸ってくる」

「みのりちゃんは嬉しくないの? 永遠に弄られて喜ぶ女性はたくさんいるんだよ」

 ドアに向かうみのりの背中に、天音の探るような声がかかる。
 男にからかわれて嬉しいか?
 ドアノブに手をかけたみのりは、後ろを振り向かず、

「わたしのなかで死んでるの。そういう気持ちは」
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