アロマティック
「あっ」

 天音が小さく声をあげた。皆の視線が集まる。

「わかった」

 唖然とした表情で呟く。

「ほら、やっぱり彼女いたんでしょ?」

 テーブルに両手をついて、天音のほうに身を乗り出したみのりが、問い詰める。

「いや、あれは……確かに僕が聞いたときも、失恋って言葉を使ってたけど、なんていうか、微妙な気持ちを例えて『失恋』って表してただけなんじゃないかと」

 曖昧に答えをはぐらかし、天音はみのりから顔を背けた。
 本当に失恋したんじゃないってこと? それなら微妙な気持ちって? みのりは複雑な表情で首をかしげる。そのそばで、

「ほら、待受けのあの画像の」

 他の4人が頭を寄せ合って、小さな声で話している。

「あぁ……」

 空と朝陽がわかったという風に、顔を見合わせて頷きあう。

「えっ? えっ???」

 天音のヒントを聞いてもわからないままの聖が、キョロキョロ頭を振って答えを促すように、ひとりひとりの顔をのぞき込んでいる。

 最初、朝陽の話しをしていたはずなのに、いつの間にか話題が、永遠の『失恋』の話しになっている。別にこだわっているつもりはないけど、ここまで話した以上、曖昧なままで終わらせたら余計気になってしまう。納得するまで、後には引けない。
 みのりは切り札をだした。

「春」
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