アロマティック
 あのとき、確かに感じた手のひらの感覚。
 背中を押された次の瞬間、見えたのは地面だった。建物の入り口に立つ警備員を除いて、あそこにいたのは、先を行く永遠とその後ろを歩くわたし。入待ちのファンのひとたちだけ。
 永遠のアロマアドバイザーとして仕事をするようになって、約2週間。その間、永遠の移動にはわたしも必ず一緒だった。
 だから、顔を覚えられていたんだ。

 多分、これは始まりに過ぎない。

 ―――わたしへの警告。

 みのりはこの先の不安を感じて、沈んだ顔でため息をつく。
 心の内に閉じこもるみのりを、空、天音、聖が心配そうに見つめた。

「これ、なーんだ?」

 見かねた天音が、みのりの対面の椅子を引っ張り出して、背もたれを前にして跨ぐ。天音はみのりに見せるように、手に持っているものを突きだした。
 我に返ったみのりが、きょとんとした顔をあげると、天音の手が滑らかな動きで、テーブルの上に同じ絵柄のカードをなん十枚と広げている。

「カード? トランプ、かな……」

 みのりの答えに正解と笑顔で頷いた天音が、テーブルの上に広げたトランプを、馴れた手つきでシャッフル。
 何が始まるの? みのりは黙り混んだまま、天音の手のなかのトランプに注目した。
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