アロマティック
「これは?」

 シャッフルし終わったトランプを片手に集め、一番したのカードの数がわかるようにまとめたトランプを持つ手を返して、みのりにわかるように見せた。

「クローバーの、10」

 みのりの答えに頷いた天音が、空いているもう片方の手で見えているクローバーの10のカードを、隠すように手のひらで覆う。

「よーく見てて」

 トランプをポン! と、叩いて、ゆっくりゆっくり……みのりの反応をうかがいながら、トランプの上に置いた手をずらしていく。その手の後ろから少しずつ、隠れたトランプが姿を現し始める。見えてきた色に、みのりは驚いた。

「あれ、赤……?」

 さっきは黒だった。黒のクローバーだったものが、赤のハートに。
 そして現れたのは。

「エース? んん!? エース? だって、さっきは確かにクローバーの10だったのに。なんでなんで? どうやったの?」

 先ほどの暗い表情は消え、天音が見せた簡単なマジックに、驚きと興奮から大きく見開いた瞳をキラキラさせている。

「秘密」

 知りたがるみのりに、舌を出して意地悪く笑う天音は、みのりに笑顔が戻ってホッとしていた。

「天音、ひとを騙すの得意だよね」

「リーダー、人聞きの悪いこといわないでください」

 苦笑いを浮かべた天音が、ほんわりと笑う空に突っ込む。
< 127 / 318 >

この作品をシェア

pagetop