アロマティック
「ほんと器用だよな。純粋な俺は絶対そんな上手く相手を騙せないぜ」

 聖も、天音のマジックに感心している。

「騙すはやめてください。マジックなんだから。だいたいあなたは純粋なんじゃなくて、ばか正直なだけでしょ」

「あっお前、ばか正直ってなんだよっバカはやめろ!」

「同じような意味合いだけど、聖ちゃんにはばか正直のほうがお似合いなんです。あっちょっとじゃれつかないでください!」

 天音に聖が飛びかかり、わちゃわちゃ始まる。やめて欲しいわりに楽しそうで、見ているこっちもつられて笑顔が浮かぶ。

「仲がいいなぁ」

 思わず口に出る。

「天音はね、一手先を読んで行動するとこあるんだ。それに比べて単純な聖ちゃんは、引っ掛かりやすいから弄りがいがあるんだよ」

 リーダーが、穏やかな眼差しでふたりを見守っている。

「これでも最初は皆、けんかばっかりだったんだよ。個性的な人間が5人集まったんだから。衝突繰り返しながら仲も深まって、いまでは家族」

 それが自慢でもあるように、リーダーの顔に誇らしげな表情が浮かんだ。

「お互いを認め合って――」

 乱暴に開かれたドアが、みのりの声を遮る。その場にいた全員の注目が、たったいま大きく開かれたドアに集まる。
< 128 / 318 >

この作品をシェア

pagetop