アロマティック
「わたしは正しい選択をしたつもり」

 静かに、しかしはっきりとした口調で伝える。

「間違ってるだろ!」

「間違ってなんかない!」

 声をあらげる永遠に、高ぶる気持ちを押さえきれなくなったみのりも同じ調子で返す。

「いわないことで誰も傷つかなかったでしょ?」

 なぜ永遠は、こんなに怒ってるの?
 普段、怒りを見せない永遠に、頭ごなしに怒鳴られていることが信じられなかった。

「じゃあお前は傷ついてもいいのかよ!?」

「傷つかなかったじゃない。それにもしあのとき、怪我をしていたとしても結果は同じ、転んだっていってた」

 自分の行動は正しかった。みのりは両手を広げて抗議する。

「俺は外見のことだけいってるんじゃない。いきなり背中を押されて転んだら気持ち、動揺するだろ!? 落ち着くまでそばにいてやりたいだろ!」

 己のシャツの胸元をくしゃりと掴み、握りしめたその手で胸板を叩いた永遠が詰め寄る。

「俺のために自分を犠牲にしようと思うな。俺はいいんだよ。でも、お前は守らなくちゃだろ」

 痛みに耐えるように顔を歪ませる永遠に、みのりは胸が締め付けられた。その苦しげな様子を見ていられなくて顔を背け、呟く。

「平気だよ。あれくらい……」
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