アロマティック
 お客さまが来ていることを察したみのりは、礼儀正しく一声かけ、疲れて痺れる腕が重い荷物を落とす前に、急いでテーブルの上に置いた。一刻も早く、ボトルマグをテーブルに置くことに夢中になっていたため、顔も上げず、来訪者にも無関心になっていた。

「アドバイザーをやってもらってる彼女が戻ってきました」

 となりに立つ永遠の声に、彼を見上げる。みのりを見つめて輝く永遠の笑顔に、幸せを感じながらみのりも微笑みを返す。
 どこかでハッと、息を飲む声。大股で、みのりへと近づいてくる人影。

「みのり……?」

 その声を聞いたみのりは、信じられない思いで目の前に立つ男を振り返る。
 みのりの目が、驚きで見開かれた。

 まさか。
 そんな。

 目の前に立つ男に、みのりの胸が締めつれられるような強烈な痛みに襲われた。

 これは、なにかの幻影?

 わたしの全てだった、心から好きだったひと。
 数年ぶりに見るのは、あの頃よりずっと男らしくなった、大人びた顔……。

「りょ、う……?」

「みのり……!」

 逃げるように、イヤイヤと首を振って後ろに下がろうとするみのりの体が、テーブルにぶつかって止まる。

「ずっと探してた……!」

 抵抗する間もなく、腕を捕まれ、気づくと凌の腕に抱き締められていた―――。
< 171 / 318 >

この作品をシェア

pagetop