アロマティック

守護神降臨

 もう二度と会うつもりはなかった、元カレの直江凌。
 凌は、つき合っていた当所から、俳優のたまごとして劇団に入っていた。当時から既に素質を買われていた凌が、近い将来俳優になるだろうということはわかっていた。芸能界にいるだろうということもわかっていた。

 だからこそ凌を避けるため、雑誌やテレビはほとんど見ることのない生活を送ってきたし、永遠くんの元で仕事を始めてからも、用があるとき以外は、むやみに楽屋から出ることはなかった。

 どこかで会うかもしれない。

 常にその危険性はあったから。
 いつも楽屋で大人しく留守番をしているわたしに、Earthのメンバーが見においで、と優しく誘ってくれても、やんわりと断り続けた。少しでも接触する可能性を避けたかったから。
 それなのに。

 まさか、こんなところで。
 まさか、再会するなんて。

 以前はわたしの居場所だと信じて疑わなかった、凌の腕。
 でもいまは。
 懐かしい腕に抱き締められても、不快なだけだった。

「離して!」

 凌の着ているスーツのジャケットに両手を置き、硬い胸板を押して、その腕から離れる。
 今にも倒れそうな青白い顔をして自分から離れていくみのりを、凌は信じられない思いで見つめ、がく然とした。
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