アロマティック
「みのり、少し落ち着いてくれないか」

 害はないのだと、相手を安心させるように両手を広げて凌は近づいてくる。絶対に触れてほしくなかったみのりは、逃げ場を探し、あたりに視線をさ迷わせたところで後ろから腕が伸びてきた。その腕に、背後から包まれる。

「あんた……? いや、やっぱいわなくていい」

 不機嫌さを隠しもしない永遠の声が真後ろから届く。
 聞き慣れた永遠の声は、怯えるみのりに、この場にいる勇気を与えた。

「まさか。みのりと永遠さん?」

 みのりを後ろから守るように抱き締める永遠。拒むどころか、安心して身を任せているみのり。そのふたりをじっと見つめ、凌は考え込むような表情を浮かべた。

「ずいぶん親密なんですね。もしかしてつきあってたりするのかな?」

「俺の大事なアロマアドバイザーだけど」

 永遠が大事な、を強調して凌を鋭く睨み付ける。
 凌が、意味深な言葉に疑問を持つ前に、他のところから声が上がる。

「なるほどね。あんたがうちのお嬢を苦しめた男ですか」

 それまで大人しく座っていた天音が席を立ち、永遠に並ぶ。いつの間にか力の入っていたみのりの拳を、優しく手に取り、勇気づけるように包む。

「もうあんたのみのりじゃないってことは確かだね」

 朝陽が席を立ち、天音の反対側に立つ。みのりのもう片方の手を、励ますようにそっと握る。
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