アロマティック
 みのりはドアを指さした。極限まで怒りが達した彼女の肩は、大きく乱れた呼吸に上下していた。

「ご、ごめん」

 みのりの剣幕に圧倒された凌が、慌てて謝罪する。
 彼女を取られたという気持ちから怒りに駆られた凌は、守護神のように立ちはだかる男たちを前に、思ってもみなかったことを口走ってしまったのだ。
 しかし、みのりが謝罪を受け入れるわけもなく。

「出ていって!」

 怒りに瞳を輝かせ、険しい表情を変えることはなかった。話しを出来る状況ではない。凌は引き下がることにした。

「ドラマでは、よろしくお願いします」

 改めて頭を下げ、もう一度なにか問いたげにみのりを見つめ、帰っていった。
 凌が退出すると、スタジオを沈黙が包んだ。
 このタイミングで、凌が言い残していった『ドラマでは、よろしくお願いします』という言葉。
 嫌な予感しかしなかった。
 みのりは目を閉じ、心を落ち着けるために大きく息をつき、硬く強張ってしまった口を開いて問いかけた。

「凌は、誰とドラマに出るの?」

「アロマティックに、俺と。主演」

 永遠が淡々と答える。

「……そう」

 やっぱり。
 予感が当たり、最悪の展開に笑いたくなってきた。
 永遠と共演。
 主役級のふたり、一体、どれくらいの頻度で顔を合わすことになるの?
 わたしはそれに耐えられるの?
 無理だ。
 わたしは、凌のそばにはいられない。
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