アロマティック
「裸……凌の上で……揺れる、見たこともない女の子」

 想像以上の壮絶な過去に、みのり以外の全員が凍り付く。

「そんなの見ちゃったら……信じれなくなるの、当たり前でしょ」

 振り返り、自分の感情を必死に殺してなんでもないことのように話す笑顔が、泣いているように見えた。
 痛すぎる笑顔が、胸に突き刺さる。

「みのり……」

 全ての痛みから救ってやりたい。手を差し伸べる永遠に、みのりは首を振る。差し伸べられた手から逃げる、みのりの背中がドアにぶつかる。

 全てを話してしまったからには、どんな顔で皆と接したらいいのかわからなくなってしまった。
 どんな表情で見られているのか、考えるのも怖かった。
 同情の浮かんだ眼差して見られるくらいなら、もう会わない方がいい。
 どうせ、凌のいる場所に、わたしはいることができないのだから。

「ごめんなさい。わたし、ここにはいられない……‼」

 両手を使って素早くドアを開け、みのりは廊下へ飛び出した。
 どんなに辛い選択だったとしても、絶対に泣かない。
 泣いたって問題は解決しないんだから。
 みのりは歯を食いしばって廊下を走った。
 もう男のことで泣かないと、あの日、凌の部屋を出たわたしは心に誓ったのだ。
 絶対に泣くものか。
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