アロマティック

追う者、守る者、守られる者

 潮の香りのする撮影現場。風もなく過ごしやすい暖かさで穏やかな気候。絶好のロケ日和。
 今日のロケは、海のすぐそばにある遊園地を貸しきって進められる。
 本日から、ドラマ『アロマティック』の撮影スタートだ。

 様々なアトラクションのある遊園地の撮影ポイントに立ち、セリフ確認のスタッフとメイク担当に囲まれながら、永遠はある一点を真っ直ぐに見ていた。
 撮影スタッフが慌ただしく行き交う向こう側に設置された、休憩所。アロマ基材が並んだテーブルに、みのりがポツンと座っている。
 その近くでは凌が、ドラマのアロマ指導のスタッフと話し込んでいた。
 永遠の心境は、いつか凌がみのりに近づくのではないかと気が気でないようだ

 あー……みのりのそばにいてやりたい。

 心からそう思ったとき、思いが通じたようにみのりが顔をあげ、目が合った。

 大丈夫か?

 目で伝える。
 小さく頷いたみのりは笑みを浮かべ、手を横に振って大丈夫だと伝えてきた。
 凌が近くにいることに不安を感じているはずなのに、気丈にふるまっている姿に胸を打たれる。
 くそっ、やっぱりそばにいてやりたい。

 ロケの場合、各々に与えられるはずの楽屋がないこともある。適当な場所が確保できないのだ。今回のロケは役者が着替えやメイクをする簡要楽屋は準備されているが、個別の楽屋がないため、いつものようにみのりが待っている場所がなかった。
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