アロマティック
 みのりがEarthの楽屋にいることも、ある一定の期間が過ぎれば姿を見ることもなくなる、一過性のものだ。関わることなく放っておけばその内いなくなる、と考えていた。
 距離を置いて接していたつもりが、その距離は次第に縮まって、気づいたら彼女がいる空間を許容している自分がいた。
 永遠が心底ホレきって甘やかしている姿を見るのも楽しかった。彼女に一喜一憂する永遠に、メンバー皆でワイワイやるのも楽しかった。
 それが。
 凌が現れて、一変する。
 普段は芯が1本通ったように真っ直ぐで、テキパキと仕事をこなしているのに、過去の男の出現に心底取り乱す彼女を見て、感じたことのない胸騒ぎに襲われた。そして、次に感じたのは、彼女を守りたいという衝動。
 崩れ落ちそうな彼女を支えてやりたい、と。
 だが、気持ちが動くのが遅すぎた。

 彼女には永遠がいる。
 永遠には彼女がいる。
 だから、俺が入る余地はない。
 だったら、俺はふたりを仲間として支えよう。

 ただ、1つ願うのは。
 生まれてきたときからずっと呼ばれ続けていた自分の名前を、君の声で呼ばれること。

「ね」

 相づちを求める空が浮かべた笑顔は、見ているこっちの力が抜けてしまうような、いつものほんわりとした暖かいものだった。みのりは嫌われていた訳ではないのだと、ホッと胸を撫で下ろした。
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