アロマティック
「空くん、ありがとう。ハムスターまんじゅう、とっても美味しい」

 手に持ったままだったハムスターまんじゅうを、みのりは頬張り、

「うん」

 みのりに名前でお礼をいわれ、頷いた空はとても満たされた笑顔を浮かべた。

「あっハーブティー入れるね」

 立ち上がったみのりは、不意に声をかけてきた凌のことを思い出した。今このときまですっかり忘れていたのだ。
 辺りを見渡しても、凌の姿はない。
 あのとき、あのタイミングで空が現れなかったら、どうなっていたんだろう。

 偶然にしては、出来すぎているような―――?

 まるで救世主のように登場した当の本人は、精油の入ったケースから瓶を取り出し、そこに書いてある情報を熱心に読んでいた。
 電気ポットでお湯を用意している間、改めて周りを見ると永遠はもう撮影の本番を迎えていて、関係者の人たちは息を潜めてそちらに神経を向けている。
 本番のシーンを素人のわたしが間近で見たところで、撮影の邪魔になるだけだ。だったら、撮影の合間に休憩する人たちが気軽に喉を潤せるように、誰が飲んでもいいように多めにハーブティーを作っておこう。

「みのりちゃんは和菓子、作ったことある?」

 ティーポットにスプーンですくったハーブを入れていると、精油への興味が薄れたのか、テーブルに両腕を投げだしてリラックスした様子の空が問いかけてきた。
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