アロマティック
「ちなみにその口紅、コンセプトはキスしたくなる唇。キスしても落ちない口紅らしい」

 口の端を持ち上げて、意味深な笑み。

 キスしたくなる唇。
 キスしても落ちない口紅……。

 一瞬、頭の中に、永遠くんの姿がよぎった。
 永遠くんとキスをしている自分……。

 な!
 ななななんで!?
 わたしったらなんでそんな妄想を!?

 朝陽くんに唇とか、キスとか聞いたからだよ。
 別に特別な意味なんか!

 邪心を振り払うように首を振る。
 コンセプトとやらを教えてくれた当の本人は、みのりの心のうちなど知るよしもなく。

「艶やかな色から、肌に合わせやすいベージュってやつまで色々あるよ」

 律儀にひとつひとつカラーを確かめて、同じ向きにキレイに並べていく朝陽。並べたものを指で追いかけ、ひとつ取ってカラーを確かめる。

「これ、みのりちゃんに似合うんじゃね?」

 みのりは差し出された口紅を受け取る。カラーはチェリーピンクだ。

「つけてみてよ」

「いま?」

 うん、と皆にそろって頷かれたら、ノーとはいえない。

「わ、わかった。じゃあちょっとつけてくるね」

 どんな感じになるかな?
 席を立ったみのりは、期待と不安を抱えながら化粧室へ向かった。
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