アロマティック
 今さらなにを話そうと言うの?

「話すことなんてない。再会したとき、わたしはちゃんと気持ちを伝えたはずよ」

「できることならもう一度チャンスがほしい。ぼくはあの日以来、みのりのことが頭から離れないんだ」

「体は心と違う行動をとっていたみたいだけど」

 こうして凌と話していると、どうしても思い出してしまう裏切りの光景。嫌悪感に襲われ、どうしても言い方がキツくなってしまう。

「もう大人なんだからわかるだろ? やりたい気持ちの勝る若い頃っていうのは、好きな相手じゃなくても体は―――」

「やめてっそんな話し聞きたくない!」

 凌の吐き出す言葉を聞きたくなくて、耳をおおってその場にうずくまる。

「みのり、ごめん」

 拒否反応を示すみのりに、話しを穏便に進めたい凌はすぐに謝罪した。

「お願いだ。ぼくの話しを聞いてほしい」

「聞きたくない……聞く必要もない! それ以上近づかないで‼」

 こちらに近づいてくる凌を制止する。

「みのりちゃんのいうとおり、それ以上近づかない方が身のためだよ」

 その声と共に、物陰からスラリとした長身の人物が現れる。みのりの緊張が緩んだ。
 パーカーに、ダメージの入ったジーンズという格好の聖だ。
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