アロマティック
 普段のお調子者といった雰囲気はなく、険しい表情を浮かべて凌を見据えている。みのりのところまで歩みを進めると、うずくまったまま信頼の目で自分を見上げる彼女の手を取って、立ち上がるのを手伝った。

「忠告はちゃんと聞いとくべきだって、わかるよね?」

 聖はもう一度、凌に念を押して、みのりにはいつもの笑顔を向けた。

「行こ」

 凌の視線を背中に感じてもそれは無視した。聖は、みのりを守るナイトになって、しっかりと手をつなぎ、その場を去った。

「大丈夫?」

 聖はいまにも倒れそうな青白い顔をしたみのりを気遣う。
 まさかあんなところで会うなんて。
 突然不意打ちの如く現れた凌にバッタリとでくわしたみのりは、なかなか衝撃から立ち直れなかった。

「聖ちゃんが来てくれたおかげで助かった……本当にありがとう」

 心からの感謝の言葉に、聖は気まずさを隠しきれずに頭をかいた。

「いや、じつはさ。迷っちゃって困ってたところでみのりちゃんの声が聞こえたんだよね」

「迷ってたの?」

「いや、でも、迷ってよかった! 結果オーライ! だよね? ハッハッハ」

「あ、あはは……」

 あっけらかんと笑う聖に、みのりは乾いた笑いしか返せなかった。
 いい意味で期待を裏切ってくれる聖は、さすがである。
< 205 / 318 >

この作品をシェア

pagetop