アロマティック
 みのりがハーブティーの入ったボトルマグを抱えて、皆の集まるリハーサルスタジオに入っていくと、ただならぬ雰囲気に気づいて足を止めた。
 リハスタのなかは静まり返っていて、ひとり立ち尽くす永遠がスマホを片手に握りしめ険しい表情をしている。
 永遠くん?
 胸を不安が襲い、重い荷物を置いて永遠に近づく。

「なにかあったの?」

「………」

 黙りこむ永遠の口元が強く引き結ばれている。ものすごく怒っているのを押さえているようだ。

「永遠」

 戸惑うみのりを見かねた空がそっと促した。
 永遠はため込んだイライラを吐き出すようにため息ひとつ。そしてようやく強ばった口を開いた。

「きっとみのりは、俺が望む返事をしないと思う」

「どういうこと?」

「アロマティックの撮影に関わってる、アロマ指導担当の須藤さんが、高熱で動けないらしい」

「それで?」

「今日の撮影、代わりにみのりに来てほしいそうだ」

「わたし?」

 驚いたみのりが自分を指さす。
 どうして皆、浮かない顔をしているの?

「須藤さん、直々の指名だ」

 アロマ指導指導をしている須藤さんは、50代後半の細身の女性でアロマ専門学校の先生でもある方だ。初日に挨拶をしてから何度も顔を合わせているが、それほど親しいわけではないのでなぜわたしが? と使命されたことにびっくりだ。

「なんでわたし?」

「今日の撮影のメインの役者は、凌だ」

「………!」
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